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其の三

1ダースの期待

薬膳と 福新楼と 皿うどん

「薬膳とは中医学論に基づいて季節の変化や個人の体質に適した食材を選び、色、香り、形、味のすべてに満足できるように調理され、毎日食べて美味しく、健康増進に貢献する食事のことである」と提唱される徳井教孝博士と三成由美博士。薬膳の第一人者として国の内外を問わず活躍中のお二人は、上海中医薬大学客員副教授であり、経済産業省 産官学連係コーディネーターとしても活躍されている。そのお二人に、8月に100周年を迎える福新楼との思い出話などを聞いた。

三成「福新楼に初めて訪れたのは大学三年の時で、中国料理のテーブルマナー研修会でした。点心の皿うどんが美味しくて、自分が気に入ったものだから、友人知人たちにも宣伝してましたよ。あの頃は、一皿おいくらだったのでしょう?」
徳井「私も九大生の頃に皿うどんを食べに来たのが、福新楼とのご縁の始まりです。確か450円とか、それくらいではなかったでしょうか?」
三成「そうそう。ピザがブームの時代で、『クレハ』や『でんでん虫』『バルバ』など福岡中のピザを食べ歩いていました。恩師・中村ハル先生は ”人間の健康に寄与する食に関わる人は舌メータと技術を鍛えるように“と言われ、私は先生の生き方に傾倒していたので、その教えに乗っ取って、職に就いてからは給料の大半を胃袋に納めています(笑)」

徳井「それはそうと、福新楼は皿うどん発祥の店で有名ですが、福岡で最初に中華麺を食べさせた店でもあるそうですね?」
三成「張社長のおじい様の代に家内工業で麺づくりを始め、そのつくり方が市内の麺屋さんを通じて広まったとお聞きしたことがあります。張ファミリーの中華麺こそ博多ラーメンのルーツであり、低加水の極細麺は日持ちさせるための得策だったんですね。皿うどんに於いては更に日持ちさせることを考慮して、麺を油で揚げる究極の調理法をあみ出したわけです。皿うどんを初めて一口食べた時の食感が忘れられません。煮、揚、炒、三つの調理法を駆使し、流行り廃りに迎合することなく現代まで継承され、一途によく味を守ってきたものだと感動しますね」

徳井「味もそうですが、量に関しても言えるんじゃないですか? 一皿で二人分、みたいな量でしょう? 茹であとの麺は220グラムあるそうです。私の生まれた昭和三〇年代は、たくさん食べることがいいとされた時代でした。しかし、今は肥満が増え摂取カロリーを抑えようとする時代です。それなのに、いまだに人気メニューとなっているのには驚きです」
三成「皿うどんは、海・陸・空の食材がその一皿で摂れるところが素晴らしいし、価値ある調理品だと言えます。季節の野菜から色、香り、味ともに良いものを厳選し、調理されている。栄養バランスに優れたお薦めの一品です。福新楼で出されている調理品はどれも健康や嗜好、そして安全面でも安心していただける、私たちの考えている薬膳そのものですね」

徳井「三ヶ月に一度、アジア食文化の調査を兼ねて中国、韓国を旅しているんだけど、これらの国では家族四世代で卓を囲むような食事が日常なんですよ。だから、つくる量も半端じゃない。一鍋の料理を曾おじいちゃんと曾孫も含めて大勢でつつき合う、そんな光景は日本では失われつつあるように思いますね」
三成「それこそ、中華の醍醐味ですね。その土地で採れた食材を使って、健康に気を配りながら料理したものを、気心知れた者同士で安らぎと語らいも一緒にいただく。そうやって幼い頃から食育が培われていくんですよ」

徳井「いまや日本のレストランの厨房は流れ作業になってしまって、いわゆる職人気質の料理人の時代は終わったとまで言われている。そんな中、福新楼はかたくなに伝統を守りながら若い人を育てられている。この姿勢をいつまでも大事にして欲しい」
三成「同感です。贅沢を言えば、ストレス社会に生きる私た
ち五〇代シニア世代が、朝・昼・夜と気軽にゆっくり楽しめる場を提供してほしいものです。一杯のお茶を、飲茶を、また、お料理やお酒を‥‥。福新楼の第二世紀に期待することは、レストランの調理品が家庭でつくる健康増進のための調理品の参考になったり、モチベーションを高めたりするための工夫です」

PROFILE

医学博士
徳井 教孝(とくい のりたか)さん

長州に生まれ、土佐で育つ。
九州大学医学部卒業。医学博士、産業医科大学 産業生態科学研究所 臨床疫学講師、上海中医薬大学 客員副教授、経済産業省 産官学連係コーディネーター

中村学園大学 教授  栄養学博士
三成 由美(みなり よしみ)さん

福岡県豊前市に生まれ、北九州で育つ。
中村学園大学家政学部卒業。
栄養学博士、管理栄養士、中医栄養士、中村学園大学 栄養科学部 栄養科学科 教授、中村学園大学 薬膳科学研究所研究員、上海中医薬大学 客員副教授、経済産業省 産官学連係コーディネーター

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